HERPの新規事業立ち上げの裏側!「ジョブミル」β版リリースまでの道のり
こんにちは。HERP広報の白石です。
2024年10月、人材紹介会社向け人材紹介システム『ジョブミル』の正式版をリリースしました。ジョブミルは、複数の採用管理システム(ATS)からの求人情報を自動で集約し、一括検索できる求人管理システムとして、2023年にβ版を提供開始しました。約1年間で、500社以上の人材エージェントに導入いただいています。(『ジョブミル』正式リリースの概況や展望については以下もご覧ください)
今回は正式版のリリースに伴い、ジョブミルの立ち上げからβ版リリースに至るまでを、事業責任者の徳永遼と、開発をけん引した亀岡亮太の2人に振り返ってもらいました。
——お二人はHERPの創業メンバーでもありますよね。どのような経緯でジョブミルに携わることになり、今どのような役割を担っているんですか?
徳永:そうですね。僕はHERPの取締役として、『HERP Hire』事業などの責任者を担ってきました。2023年ごろから新規事業開発に8割以上のリソースを割いており、ジョブミル提供開始に伴い、ジョブミルの事業責任者をメインの役割としてきました。
亀岡:私は元々『HERP Hire』の開発に携わっていましたが、新規事業を立ち上げるにあたり、フルコミットできる開発者が一人ほしいということになり、それ以来ジョブミルの開発に携わっています。今は複数のエンジニアで開発を行っていますが、今回のテーマである最初期からβ版の提供開始頃までの開発は一人で担っていました。
MVPはスプレッドシート。スプレッドシート時点で明確に業務にフィットすることがわかった
——ジョブミルという事業が生まれたのは、どういった経緯でしたか?
徳永:新規事業にリソースを割いていたのは、既存事業の伸び悩みがきっかけでした。伸びてはいるけれど成長率が足りていない、今のままでは採用を変えるようなインパクトを残せないという課題がありました。そのため、2022年ごろから新規事業の立ち上げに組織としてリソースを割き始めました。
新規事業の方向性として当時いくつかの選択肢があり、そのうちの1つとして人材紹介会社向けのサービス提供の検討を開始しました。
——その後はどのようなプロセスで、プロダクトを固めていったのでしょうか?
徳永:市場とユーザーの理解を深めるべく、エージェントさんへのヒアリングを進めていきました。つながりのある数十社のエージェントさんに話を聞きに行きましたね。
「人材紹介業務をどのように行っているか」を把握していく中で、ジョブミルの元となるアイデアが生まれてきました。
人材エージェントのコンサルタントさんは、採用企業から採用管理システム(ATS)上で求人を共有されます。しかし、企業ごとに異なるATSを使っているため、求職者の方に合った求人を探す際に、様々なATS上で別々に求人を探すという手間が思ったよりもかかっていることがわかりました。こうした課題を解決するため、求人を集約し、一ヶ所で検索できるようにすることで、業務負荷を軽減し、より求職者の方に合った求人を提案できるようにする、というのがジョブミルというプロダクトの原案です。
ヒアリングを通じてアイデアが得られたので、プロトタイプを利用した検証フェーズに移ります。まずは第1のプロトタイプとして、Google スライドによる営業資料と、Figmaによる画面イメージを作成し、これらを使ってサービスコンセプトの検証を行いました。その結果、「興味がある」「ぜひ使いたい」といった嬉しいお声をいただくことができました。
一方で、サービス構想を話して「使いたい」と言ってもらっても、実際に提供したら全く使ってもらえなかったというのはよくある話です。顧客は自分の真のニーズを言語化できないことが多く、インタビューで出てきた意見を鵜呑みにしないようにしています。前職であるビービットでは「意見ではなく行動をみる」という原則が浸透していました。
営業資料と画面イメージだけでは行動をみられないので、第2のプロトタイプとして、Google スプレッドシート上に簡単なアプリケーションを構築し、プロダクトが実際に業務に乗るかどうかを検証しました。
——スプレッドシートとは意外ですね。
亀岡:いかに開発をせずに検証を行えるかと考えた結果です(笑)。求人を集約する部分は技術検証の段階で既に作ってあったので、日々のデータの更新は私が手動でやることにして、求人を検索できる機能のみを実現しました。
徳永:このプロトタイプを数社のエージェントさんに提供し、実際の業務の中で使っていただきました。
——スプレッドシートでの提供でも実際に業務でご利用いただけたんですか?
徳永:結果としては想定外にめちゃくちゃ使ってもらえました。ヒアリングから得られた手応えから理論上は使ってもらえるはずと思っていましたが、実際にどうなるかは正直わからなかったので、使ってもらえている様子が見られてテンションが上がりました。週に何回アクセスして、何回検索しているのか、といったログを見ると、皆さん毎日使ってくださっていて、多い企業だと一日数十回も利用いただいてました。
スプレッドシートなのでお世辞にもイケているUIとは言い難いのですが、それでもこれだけ頻繁に使ってくれるのは、手ごたえを感じましたね。
亀岡:仲の良いエージェントさんさんからは「徳永さんが作ってる割にはUIがシャビーですね」というフィードバックもありましたが(笑)
一同:(笑)
亀岡:ともあれ、リーン・スタートアップやアジャイル開発の「できるだけコストをかけず、検証を繰り返すことで不確実性を減らしていこう」という原則に則り、本格的な開発に着手し始める前に「これはいけそうやな」という手応えを感じられたのは非常に良かったと思っています。
徳永:まさにこのスプレッドシートがMVP(※)の役割を担うことで、プロダクトの価値を検証できました。
採用ドメインに絞ってビジネスを提供しているからこそ、事業がつながる
——プロトタイプを提供し、プロダクトの方向性が決まってからは、どのようなステップで事業開発を進めていったのでしょうか?
徳永:β版の提供に向けた開発を進めつつ、ビジネスプランを固めていきました。
現在のジョブミルのビジネスモデルは既存事業(HERP Hire)とのシナジーをつくれていますが、最初はシナジーの考慮はあまりできていませんでした。単体のプロダクトとして価値があるものを生むことにフォーカスして検討しており、二の次としていました。その後HERPという企業としての強みをどうやったら生かせるか、伸ばせるかという視点で考えるうちに、「HERP Hireユーザー求人」というアイデアが出てきました。
最初は点でもいいから1つの新規事業をなんとか立ち上げようと始まったものの、後から既存事業とのつながりをつくれたことは本当に良かったです。これはHERPが採用ドメインに絞ってビジネスを提供しているからこそだと思っています。
亀岡:この頃に検討していたビジネスモデルも、エージェントさんへのヒアリングを通じてブラッシュアップしていきました。それらの中には、手応えはありながらも開発の優先順位上実現できていないものがいくつもあるので、これからのジョブミルの進化がまだまだ楽しみです。
「売ってからつくる」、言うのは簡単だが実践するのは本当に難しい
——プロトタイプ提供を通して、予想外だったことや、仮説と異なる結果が得られたことはありましたか?
徳永:有償でのプロダクト提供(β版)は8月末からスタートしました。そこで、創業から何回目かわからないですが、実際に売ることで得られるフィードバックの重要性を改めて学びました。
——どんな学びがあったのでしょうか?
徳永:プライシングにまつわる気づきは大きかったですね。現在のジョブミルは、25,000円の基本料金で2,000件の求人までカバーしていますが、最初は基本料金なしの完全従量課金制を考えていたんです。ジョブミルの価値と連動するのは、ジョブミル上で管理する求人数だと考えていたからです。ヒアリングの時点ではこの課金体系に対してもポジティブな反応を得られていました。
しかし、いざ契約となると「自社が抱えている求人がどのくらいあるのか分からないのが懸念」という反応が出てきました。この反応から現状の料金プランに見直しを行いました。実際に導入してもらうことを前提にした営業をすることで、単に利用意向を聞くヒアリングでは出てこなかった反応が得られた事例です。
2つ目の事業だからこそうまくいったこと・難しかったこと
——振り返った時に、HERPにおいての初期の事業立ち上げと今回の事業立ち上げにおける違いはありましたか?
亀岡:様々な知見やアセットが組織に蓄積されていて、いわゆる「つよくてニューゲーム」感がありました。
創業期とは異なり、CI/CDなどの仕組みや、新規事業用のアプリケーションをデプロイする環境がすでに社内で整備されている状態だったので、ゼロから構築する必要があるものが少なく、スムーズに開発を進められたと思います。他にも、利用規約の作成は社内の法務担当と二人三脚で進められますし、NDAの雛形やプライバシーポリシーなどもすでに存在する状態でスタートできました。そういった会社としての基盤や、他チームのメンバーの献身的な協力があったことで、素早く事業を立ち上げることができたと思います。
社内にデータ可視化基盤が整っていたのも嬉しかったですね。新規事業の立ち上げは本質的には仮説検証のプロセスなので、開発して終わりではなく、クイックに検証を重ね、仮説の強化や修正を繰り返す必要があるためです。様々な指標を可視化して追跡することで、こうした営みを円滑かつ高速に行うことができました。
このように、社内で新たに事業を立ち上げるコストは格段に下がっていると思います。とはいえまだまだ未整備な部分も多いですし、これからも会社として新規事業を増やしていきたいと考えているので、よりサービスを簡単に立ち上げられる状態を目指していきたいです。
徳永:もう一つは、人材エージェントさんとのつながりです。創業から6年間(当時)の事業活動・採用活動を通して、幸いにも多くの人材紹介事業者とのつながりを築くことができました。「こういう事業をやりたい」と思って、顧客となりうる方にすぐに連絡して直接声を聞けることは非常に恵まれているなと感じます。
——反対に、ジョブミルの立ち上げで難しかった点はありますか?
徳永:初めのころは、リソースを捻出するのに苦労しました。
亀岡:とくさん(徳永)はもともと既存事業と兼業していたので、思考のリソースを割くのが大変そうな印象がありました。ジョブミルに全振りしてからは、事業開発の速度もすごく上がったと思いますね。
徳永:立ち上げ期は兼任ではなくフルコミットが必須と感じています。本当に考えるべきことが膨大にあるので。一方で既存事業側に引っ張られることはありがちなので、途中から他の役割を引き継いでフルコミットの体制に移行しました。
もう一つ、スタートアップ企業として「2個目の事業の難しさ」もあったなと感じます。
最初は、新規事業とミッション・全社方針の紐付けについて課題を感じました。「人材紹介会社」にビジネスを提供するということはHERPとしても初めてで、これまで目指してきたミッションや方針とどうつなげればよいのか、答えが出ませんでした。
今は、採用業界の主要なプレイヤー向けに業務支援のSaaSを提供しながら、求人と求職者の全体のマッチングをつくっていくというSaaS+マッチングのビジネス構想がクリアになり、採用業界をどう変えていくかまでのつながりを各々が感じられるようになりました!
——その他に、事業立ち上げの最初のフェーズにおいて、大事にしていたことや工夫したことはありますか?
徳永:HERPはフルリモート可・フルフレックスの会社ですが、僕らのチームは序盤はフル出社で運営していました。新規事業の最初のフェーズということで、同期的なコミュニケーションを取りやすくしたかったからです。
リモートワークと比較して、アイデアがまだやわらかい段階での会話が増えたことが一番大きいです。アイデアの着想検証のスピードは結果として向上したんじゃないでしょうか。
(チームメンバーが増える中で徐々にハイブリッドの出社スタイルに移行してきました。)
亀岡:開発に対する要望にも即座に対応できるだけでなく、隣で開発したものを「できたで」とすぐに見せられますし、その場でフィードバックをもらってさらなる改善を行えます。こうしたサイクルを素早く回せるのはもちろんのこと、スピード感を持って物事を進められることで、チーム、ひいては社内にモメンタムを醸成できたのではないかと思います。
——最後に、HERPでの事業づくりに興味を持った読者の方に向けてメッセージをお願いします!
徳永:HERPは複数事業を提供する会社になりましたが、共通して目指していることは「求職者の転職体験の向上」で、これはぶれません。ジョブミルも人材紹介会社さまの業務を便利にするだけではなく、その先の求職者の方の体験をより良くすることを目指しています。
HERPではこれからもSaaS+マッチングの全体構想を軸に、新規事業を立ち上げていく予定です。採用領域に特化しているからこそ、各プロダクトのデータや顧客とのつながりなどのアセットを活かせますし、顧客を向いた事業開発をする文化があります。
また、新規事業立ち上げのような0→1の機会もあれば、ジョブミルのような1→10のフェーズ、既存事業のHERP Hireは10→100のフェーズといったように、HERPに入る方は、やりたいフェーズに合わせて事業にコミットできるのが良いところだと思います。
HERPでは一緒に事業を作って行く仲間を求めているので、気になる方はご連絡ください!特に一緒にサービスをつくっていけるエンジニアの方はぜひお願いします。
亀岡:よろしくお願いします!